2025/06/13
鴇地区の山ぶどう畑の日々の様子 「小坂ぶどう物語」

小坂ぶどう物語【やまぶどう系品種】new virsion2025
■灰空の下、静かに進む誘引作業──小坂町鴇地区・開花前のぶどう園より
|2025年6月12日、小坂町鴇地区のぶどう園では、肌寒い曇り空のもと、開花前の誘引作業が進められています。
展葉した新梢をワイヤーへ整列・固定するこの工程は、日照と通風を確保し、病害リスクを抑えるために欠かせません。冷涼なこの地域では、開花から結実へのスムーズな移行を助ける重要な管理作業です。
栽培者は一本一本の枝を見極め、誘引結束機で丁寧に位置を整えていく。誘引は単なる整枝ではなく、秋の健全な果房形成と収量・品質を左右する“土台づくり”。つる性のぶどうに秩序を与える静かな職人技が、畑の中で淡々と積み重ねられています。
成長日記 2024年6月12日 天候:曇り
秋田県小坂町鴇(とき)地区のぶどう園では、朝から肌寒い空気が広がる一日となった。雨の気配こそないものの、低く垂れ込めた鉛色の雲が空一面を覆い、例年よりもやや遅れた季節の歩みに、栽培現場も慎重な対応を求められています。
本日の作業は、開花を間近に控えた「誘引」。展葉の進んだ新梢(しんしょう)をワイヤーへ整列・固定し、日照と通風を確保することで、光合成効率と病害リスクの抑制を図る極めて重要な工程であります。とりわけ鴇地区のように冷涼な気候条件下では、開花から結実へのスムーズな移行を促すためにも、この時期の管理精度が収量や品質を大きく左右します。
栽培者は、誘引専用の結束機を手に、一本一本の新梢の長さ・向き・節間を見極めながら、最適な位置にて結束を施していきます。乱れたままに放置すれば、重なりや陰りが生じ、果房の成熟不良やベト病・晩腐病などのリスクが高まるため、初期段階での樹冠形成こそが、のちの栽培管理の礎となります。
一見すると静寂な畑の風景だが、その一枝一枝に注がれる眼差しには、栽培者の経験と勘、そして秋の実りへの確かな展望が込められています。ぶどうは「つる性木本」であるがゆえに、放任すれば簡単にその秩序を失う。だからこそ、人の手によって方向性を与え、整えていく──それが誘引の本質です。
いま鴇の畑では、灰色の空の下、そんな目には見えにくい技術と意思が静かに積み重ねられています。数ヵ月後、この畑に豊潤な果実が実るとき、その礎がすでにこの時期に築かれていたことを思い出すのではないでしょうか。


成長日記 2024年5月16日 天候:晴れ
陽光を浴びて、力強く。小坂の大地が育む「小公子」、初夏の輝き。
久々に差し込むまぶしい陽射しのもと、小坂町・樹海農園では「小公子」の新芽がぐんぐんと伸びています。自然の力と人の手が響き合いながら、確かな実りへ向けて、成長の季節が始まりました。
5月中旬、小坂町にようやく訪れた暖かな陽射し。静かな樹海のなか、小坂七滝ワイナリーが育てる山ぶどう交配品種「小公子」が、まぶしい光を浴びながら、いきいきと葉を広げ始めました。力強い枝ぶりと小さくもしっかりとした新芽の姿は、長い冬を乗り越えた大地と、この土地に根ざした品種ならではの生命力を物語っています。
「小公子」は濃厚な色合いと豊かなポリフェノールを特徴とする、赤ワインにとって欠かせない存在。収穫はまだ先ですが、この時期の天候と丁寧な畑管理が、秋の仕上がりに直結します。
今日の陽気に、ほんの少しだけ未来のグラスが見えたような気がしました。この一枚の風景が、今年の一本へとつながっていきます。


成長日記 2024年4月9日 天候:晴れ
春の目覚め──葡萄畑に広がる命の兆し
早春の葡萄畑にて、ひときわ目を引くのが、剪定された枝の切り口からにじみ出る透明な樹液です。この光景は、ぶどう樹が冬の休眠期から目覚め、春に向けて活動を始めた証。気温の上昇とともに地中から水分を吸い上げ、その圧力によって樹液があふれ出してきます。
写真に写っているのは、ちょうどその樹液が滴る瞬間を捉えたもの。栽培家の指先がその切り口を指し示す様子からも、自然の変化への細やかな観察と愛情が感じられます。
この時期、畑全体が静かに、しかし確実に春の準備を始めています。冬の間に行われた剪定により、樹形は整えられ、今年の成長に向けた準備が整いました。そしてこの「樹液の涙」は、生命が再び巡り始めたサイン。栽培家にとっては、これが年間の栽培計画を具体化していくスタートラインとなります。
この春の初動を見逃さず、芽吹きの時期や枝の伸び具合、気温や湿度の変化など、さまざまな要素を観察しながら、一年をかけたぶどうづくりが本格的に始まっていきます。栽培家たちは、秋の収穫に向けて、畑に足を運び、一本一本のぶどうの木と対話を重ねる日々が始まるのです。
自然のリズムと調和しながら、一年の実りを見据えた第一歩。それが、今、畑で静かに、しかし確かな手応えとして感じられています。今年も良いぶどうが実るよう、丹精込めた栽培が始まっています。

